2025年10月19日
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全2件のレビュー中 1-2件目
2025年10月19日
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2025年10月12日
東京・四谷荒木町の名店「一条流がんこ総本家 分家」の紫蘇塩ラーメンを宅麺でいただきました。
数々の宅麺を試してきましたが、この一杯はまさに別格。封を開けた瞬間から立ち上がる香りがすでにただ者ではなく、自然と胸が高鳴りました。
丼に注いだ瞬間、澄み切ったスープの美しさに息をのむ。透き通った黄金色のスープの表面に、油の膜が静かにゆらめき、レンゲを入れた途端に紫蘇の香りがふわっと立ち上がる。その香りは派手さこそないものの、まるで上質な和食の一品を前にしたときのような静謐さを感じさせます。
一口すすると、まず紫蘇の上品な香りが軽やかに広がり、その奥から魚介の香ばしさと塩の旨みが追いかけてくる。紫蘇の酸味はほとんど感じず、あくまで香りとして全体を包み込む役割。出汁の深みが驚くほど厚く、塩ラーメンとは思えないほどの満足感があります。淡麗なのに物足りなさがまったくなく、静かな強さを感じさせるスープ。まさに「がんこ」の哲学がそのまま液体になったような一杯です。
食べ進めるうちに、紫蘇の香りは形を変えていきます。最初は清涼感、次第にスープのコクと混ざり合い、最後は鼻の奥にほのかな香りが残る。まるで一杯の中で香りのストーリーが展開しているようで、最後の一口まで飽きることがありません。
麺はやや細めのストレート。パツッとした歯切れの良さと、しなやかなコシを両立しており、スープとの相性は抜群。細いのに存在感があり、スープの塩味や出汁の旨みを絶妙に抱き込みます。最後までのびることなく、食べ終えるまで完璧な一体感を保ち続ける。こうした麺の完成度の高さも“がんこ流”の魅力の一つ。
チャーシューは肉感のある仕上がりで、噛むたびにじゅわっと旨みがにじみ出てくる。魚介系のスープに溶け込むことで、全体の香りとコクに厚みを加えており、一枚でラーメン全体の印象を引き締めている。
そして驚くのは、この完成度を自宅で再現できるという事実。湯気とともに立ち上る紫蘇と出汁の香りに包まれながら丼を前にすると、もう完全に名店のカウンターに座っているような錯覚に陥る。家庭でここまで上品で奥行きのある味に出会えることは滅多にありません。
食後には、紫蘇の香りがほんのり鼻に残り、心がすっと洗われるような余韻が広がる。
「がんこ」の名を冠するにふさわしい、凛とした佇まいと芯の強さを持った一杯。
宅麺で食べられるラーメンの中でも、これは間違いなく最高峰の一角に入る完成度でした。
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東岩槻の住宅街にひっそりと佇む「オランダ軒」。
初めて訪れたときの衝撃はいまでも忘れられない。丼の前に立った瞬間に感じたのは、生姜の香りがふわりと立ち上がるあの独特の湯気。そしてレンゲを口に運ぶと、まるで醤油と出汁の旨みが波のように広がってくる。しょっぱさではなく、包み込むような丸みのある味。食べ進めるほどに身体の芯が温まり、スープの一滴まで飲み干したくなるほどの完成度。「ここが日本一の醤油ラーメンだ」——そう感じた瞬間だった。
それからというもの、東岩槻という決して便利とは言えない場所にもかかわらず、どうしても足が向いてしまう。電車を乗り継ぎ、店に着くとすでに長い行列。平日でも一時間は待つのが当たり前だ。それでも、店の前に立っただけで生姜醤油の香りがかすかに風に乗って届き、その瞬間に「今日も食べられるんだ」と思うと自然と気持ちが高まる。二度訪れたが、どちらも満席。丼を前にしたときのあの高揚感、レンゲを入れた瞬間に広がる香り、全てが記憶に刻まれている。
そして今回、あの味を自宅で再現できる「宅麺」で注文してみた。正直なところ、最初は半信半疑だった。あの店の熱気、湯気、音、そして空気の密度までは再現できないだろうと思っていた。しかしいざ届いて、湯煎を終えてスープを丼に注いだ瞬間、その考えは一瞬で変わった。立ち上がる香りがまさにオランダ軒のそれ。生姜の清涼感がふわっと広がり、醤油の甘みがすぐに追いかけてくる。香りだけで、もう満足してしまいそうになる。
実際に口に運んでみると、スープのキレはやや穏やかになっているものの、味の方向性は完全にあのまま。生姜の辛みが穏やかになった分、醤油のコクがより際立ち、家庭で食べるにはむしろちょうど良いバランスになっている。出汁の厚みと醤油の甘みが共存し、体にすっと馴染むようなやさしさがある。それでいて、きちんと芯が通っている。スープをひと口、またひと口と重ねるたびに、記憶の中の東岩槻が蘇る。
麺は中太ストレート。つるっとした喉ごしとしっかりした弾力があり、スープとの相性が抜群だ。口に含んだ瞬間に小麦の香りが広がり、飲み込むたびにスープの旨みを引き連れていく。レンゲでスープをすくっては麺をすすり、そしてまたスープを飲む——その繰り返しのリズムが心地よい。
チャーシューも見事だった。冷凍とは思えない柔らかさで、脂の部分はとろりと溶け、赤身はしっかりとした旨味を残す。スープに沈めて少し温めると、さらに風味が増して、口の中でとろけるよう。お店で食べた時とほとんど変わらない完成度に驚かされる。
この一杯を家で食べながら、ふと笑ってしまった。
「なんでこんなに遠くの店の味を、家で再現できるんだろう」と。立地が微妙でなかなか行けないけれど、こうして家で食べられるなら、それだけで幸せだ。生姜の香りが部屋に満ち、食べ終わる頃には体も心もぽかぽかになる。食後の余韻も変わらない。まるで現地で食べたかのような満足感に包まれる。
何よりこのラーメンには、「特別な派手さ」はないのに、心に残る深さがある。キレでも、濃厚さでもなく、“調和”で勝負している。それができる店は本当に少ない。結局のところ、また食べたくなるのはこういう一杯なんだと思う。
オランダ軒は、やはり自分の中で日本一の醤油ラーメンだ。店で食べても、宅麺で食べても、その本質は変わらない。いつかまた現地で、あの生姜の香りに包まれながら、静かにレンゲをすくう日を楽しみにしている。